アジサイの観賞




6,ガクの色

〜青色〜
   
左から山アジサイの黒姫、豊前の紺色、西洋アジサイの鹿沼ブルー、エンドレスサマーである。どれも青い花には変わりはないが、微妙に濃淡や彩度に差異が見られる。青い花と言えば昔からアジサイの定番で、数多くの品種があるが、上の写真のように品種に違いによってこれだけの違いが見られる。ただ、青い花に共通して言えることは、どれも涼しげで雨が似合う花であるということ。きれいな青い花を咲かせるには酸性用土と半日陰の環境下で管理すると濁りのない透き通るような青い花になる。


〜紫色〜
   
左から山アジサイの阿波紫、土佐のキラ星、西洋アジサイのフレーデンスティ、シャローナである。アジサイを漢字で書くと“紫陽花”と書くくらい切っても切り離せない花色ですが、純粋な紫色の品種となると意外に多くはない。青花やピンク花の品種が土壌の酸度により紫色に変化している場合も多いからである。それらは確かに紫色ではあるが、本来の花色ではないため、色に濁りがあったりしてあまりきれいとは言えない。ただし、紫色そのものが青花とピンク花の中間的な色でもあるため、品種によっては土壌の影響を受けやすく青色やピンク色の花になりやすい。しかし、それらは青花が紫色になったものやピンク花が紫色になったものよりは色にあまり濁りなどが出ないことが多くそれほど観賞には影響がない。上の4品種はどれももともと紫色に咲く品種である。
 
上の写真は左が黒姫で右が豊前の紺色である。本来は青花の項目にもあるように青花であるが、土壌や日照条件によってこのような色に咲くこともある。好みの問題もあるが、やはり本来の色の方がきれいである。


〜ピンク色〜
   
左から山アジサイの桃色山、伊予の花火、西洋アジサイのホバリアホベラ、サンライズである。青花とは逆に昔はあまり品種も豊富でなかったが、自生地での採取や品種改良が進んだ結果、現在では淡い色のものから濃い色のものまで様々なピンク色の花を見ることができる。山アジサイはそれほど多くないが、西洋アジサイなど人によって改良されたものに多く見られる色である。それは昔は庭植えが定番だったアジサイが、時代の流れとともに鉢植えや贈り物としての需要が高まり、華やかなピンク色が好まれるようになったためである。しかし、日本の土壌は基本的に酸性土壌であるため、庭植えにするとその影響を受け、濁った紫色になってしまうことが多く、他の色のアジサイと比べて土や日光などの環境に最も影響されやすい花色である。日当たりの良すぎるところでも色に濁りが出る場合がある。ただし例外で写真の一番左の桃色花のように土壌の影響を全く受けないものもある。

上の写真はピンク花の西洋アジサイ(品種不明)だが、日当たりのよい左側部分が紫色に変色している。このようにピンク花は土壌以外の環境要因にも敏感に反応する。


〜白色〜
   
左から山アジサイの下野白、白砂子細葉、ガクアジサイの白御殿場、アメリカアジサイのアナベルである。青花と同様に古くから馴染みのある色だが、改良が進み、華やかな品種ができた今では見かけることの少なくなった色である。白という色の性質上、他の色のように品種による濃淡はないが、白色で咲きはじめ、次第に赤みを帯びる品種がいくつか見られる。そのような性質のない品種でも、直射日光の当たる場所では日焼けで色が悪くなったり、茶色に変色してしまったりするので、日陰や半日陰で管理するのが望ましい。ただし白から赤へと変化する品種は例外で、日陰では十分に赤くならないので、日当たりの良い場所で水切れに注意して管理する。
   
上の4枚は紅の写真である。左側から開花後からの経過順に並んでいて、これで白から赤に変化していく様子がわかる。


〜赤色〜
  
左から西洋アジサイのシティーラインパリ、レッドビューティー、ホットレッドである。アジサイでは黄花を作るのが難しいとされるが、赤花も難しく、西洋アジサイでわずかに存在するだけである。ただ、赤といっても完全な赤色というものではなく、実際は濃いピンク色のものを赤花と呼ぶことが多い。山アジサイに至っては白から赤へと変化するものはあるものの、咲き始めから赤くなるのはほとんどない。日向紅が咲き始めから濃いピンク色になるくらいである。また、西洋アジサイで赤花とされるものも、土壌のpHを調整しないと色の濃いピンク色になってしまう。直射日光とまではいかないものの、ある程度日光に当てた方がより良い花色になる。    


〜黄色〜

上の写真は山アジサイの静香である。静香は山アジサイの中でも貴重な黄花として愛好家から知られている品種である。しかし、なかなか黄色にはならず、色づいても完全な黄色とはほど遠い場合が多い。また、西洋アジサイでは黄花とされる品種すらない状態で、黄花のアジサイを作ることは青いバラを作るのと同じくらい難しいことである。
  
上の3枚は静香の写真である。左側から開花後の経過順に並んでいる。両性花が開く頃には装飾花は白くなってしまう。


〜緑色〜
   
左から山アジサイの津江の黄緑、嶺の緑宝、緑花山、西洋アジサイのグリーンマーブルである。ファイトプラズマ菌という病原菌に感染したことによる葉化病で花が緑色になっている場合と、そうでない場合とがある。病原菌に感染しているものは、装飾花が緑色になるのはもちろんのことだが、その他にも装飾花が縮れたり、異常に萎縮したり、または、枝が細くて華奢だったり、周囲のアジサイと比較して耐暑性や耐寒性が劣るなどの症状が見られる。上の4品種を見てみると、緑花山は明らかに装飾花の形状に異常をきたしていることがわかる。グリーンマーブルもやや装飾花が萎縮したり形状に異変が見られる。このファイトプラズマ菌は樹液を吸う昆虫により媒介されるとされ、感染すると枯死するという報告があるが、逆に数十年栽培していても他の株に感染せず全く問題ないという報告もある。さらにはこの菌に感染したものを増殖し、品種登録までされていたりすることも事実である。現在のところ、緑花でファイトプラズマ菌によるものではないとわかっているのは緑花玉アジサイだけとされている。しかしながら、緑色に咲く花は希少で観賞価値にも優れているため非常に人気が高いのもこれまた紛れもない事実である。賛否両論諸説は色々あるものの、少なくとも栽培する場合は自己責任で栽培することになる。ただし、明らかに症状がはっきり出ている品種(株)は非常に弱く、管理が難しい。緑花山とグリーンマーブルを見比べるとわかるが、グリーンマーブルのように、他の色が少しでも交じっているものなど、元々の形質が残っているものの方が、比較的管理しやすい。また、同じファイトプラズマ菌に感染しているものでも、山アジサイ系と西洋アジサイ系(ガクアジサイ)では山アジサイ系のものの方が丈夫である。
※@
私は上の4種を含め数種類の緑花品種を栽培していますが、他の株に感染したことはありません。しかしながら感染の危険性が報告されていたり、性質が病弱であるなどの理由から購入、栽培することは推奨いたしません。これを読んだ上で購入、栽培して他のアジサイに感染しても一切の責任は持てませんので十分注意してください。
※A
土佐緑風や土佐の暁などの咲き始めに緑色を呈するものはファイトプラズマ菌によるものではないとされています。また、花期終盤に色が落ち、緑色になった秋色アジサイ(西洋アジサイに多い)と言われるものは、装飾花の老化現象によるもので、ファイトプラズマ菌によるものではありません。